前回(眠られぬ当直(よる)のために)の要約
妊婦血液で出生前検査 異常99%判明
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120829/k10014608571000.html
妊婦の血液を調べるだけで胎児にダウン症などの染色体の異常がないかどうか99%の確率で分かるとされる新たな出生前検査が、来月、国内の2つの病院で始まることが分かりました。検査を希望する人は大幅に増えることが予想され、異常が見つかれば人工妊娠中絶にもつながることから、検査前後のカウンセリングなどの態勢を整えていくことが課題です。
先日、新しい出生前検査が国内の2病院で導入と報道されました。血液検査だけで、ダウン症など(他18トリソミー、13トリソミー)の染色体異常を99%の確率で診断可能と、WEBには書かれてあります。検査特性についての論文が下記。
DNA sequencing of maternal plasma to detect Down syndrome: an international clinical validation study.
母体血中の胎児由来cell-free DNAを検査することにより、ダウン症胎児を感度98.6%、特異度99.8%で診断できるというもの。この検査で判るのはダウン症だけではありませんが、染色体異常として最も多いので、医療者やカップルの関心は高いといえます。
20-25歳妊婦(ダウン症発生率0.1%)と40代妊婦(ダウン症発生率4%)とにこの検査を行った場合、どんな結果が得られるのか、四分割表にしたのがこちら。
ダウン症(+) | ダウン症(-) | ||
検査(+) | 986 | 1998 | 2984 |
検査(-) | 14 | 997002 | 997016 |
1000 | 99000 | 1000000 |
赤色が、ダウン症を正しく検査陽性と判定した人数。水色はダウン症でないのに検査陽性となった人数。黄色は検査陽性となった総数です。この結果いえることは、20-25歳妊婦では検査陽性と判定されても、ダウン症である確率は986/2948=0.33と33%でしかなく、3人のうち1人だけがダウン症で、残りの2人はダウン症ではないことになります。
ダウン症(+) | ダウン症(-) | ||
検査(+) | 39360 | 1920 | 41280 |
検査(-) | 640 | 958080 | 958720 |
40000 | 960000 | 1000000 |
これが40代妊婦だと、ダウン症を検査で判定できる確率が39360/41280=0.953と95%以上になり、非常に正確な結果を期待できます。これで一件落着。高齢妊婦に勧めるべきと結論しようとしましたが...
???
どうしてですか?
20代の人には勧められない
高齢妊婦にはお勧め
これで決まりでしょう
カップルが選ぶこととはいえ
だいたい酒井くんの
言うとおりじゃないのかなあ
カップルが選択する以前に
ちゃんとした数値を
知っとかないとな
酒井よ
この検査が陰性であれば
ダウン症でない確率は?
もうわかります!
検査陰性の人が997016人
正しくダウン症でないと判定されたのが997002人ですから
997002 / 997016=0.999で
100%に近いっす!
ダウン症(+) | ダウン症(-) | ||
検査(+) | 986 | 1998 | 2984 |
検査(-) | 14 | 997002 | 997016 |
1000 | 999000 | 1000000 |
40代だったらどうなる?
ミチ子ちゃんよ
はい
同じように計算すると
958080 / 958720=0.999で
こちらもほぼ100%ですね
ダウン症(+) | ダウン症(-) | ||
検査(+) | 39360 | 1920 | 41280 |
検査(-) | 640 | 958080 | 958720 |
40000 | 960000 | 1000000 |
なるほど
20代でも40代でも
検査陰性ならダウン症をほぼ否定できるということか
そうだ
だから、ダウン症否定には
どの年齢群でも有用だといえるわな
ここまで来たら
あとはカップルの選択ですね
医者が口出しできることはない
もちろん選択肢の詳細を
伝える必要はありますが
まあ待てよ
何かといえば
自己決定だの医者が誘導しちゃいかんだのいうけどな
相手の希望によっちゃ
強くものを言えることもあるんだぜ
いいから黙って聞いてろ!
あるカップルがいて
障害の有無は問わない
産まれたら育てると言ったら
この検査を受ける意味があるのか?
それは意味ありませんね
障害があろうとなかろうと
産んで育てると言うんですから
でも意味がないのは
cell-free DNA検査だけじゃありませんよね
従来のクアトロマーカーやNTも意味がありません
エコーするついでにNT...なんて
軽い気持ちでやっちゃいけないわ
ちゃんと理解してるじゃないの
まあ気軽にホイホイ測る医者がいるとは...ゴホゴホ
それはともかく
もう一つ、今度は検査を強く勧めた方がいい場合もある
違う!
この検査はどの年齢の妊婦でも
ダウン症否定には有用だったじゃねーか
えーと、ダウン症児を
欲しくない人たち
......ですか?
ご明察!
もしどうしてもダウン症が困るというなら
偽陽性のことは問題にならなくなる
陰性的中率の高さが活きてくるわけだな
でも、その考え方はちょっと......
確かに産まれてくる子の健康を願わない親はいないけど
障害があれば要らないなんて
なんだか納得がいかないわ
差別的じゃないの?
ミッちゃんはそう言うけどさ
上の子が障害を抱えているカップルとか
高齢出産でこの上、責任もって療育出来る自信がないとか
いろいろ事情はあるわけだし
酒井だてらに良いこというじゃねーか
ひゃひゃひゃ
確かに問題含みだけどな
それはcell-free DNAだけの問題じゃねえ
ミッちゃんが言ったように
出生前診断そのものが抱える問題だ
検査の意味がない場合と
検査を強く勧めるべき場合とがあるのはわかります
でも医者の色眼鏡を通さないためには
データを正しく提供すればそれで
足りるんじゃないっすか?
自己決定は大切ですよ
そーゆーのは自律尊重じゃなくタダの丸投げって言うんだぜ
医者が数値を挙げてわかりやすく説明したつもりでも
頭の中に何も残ってないなんてことはよくあるぜ
お前よぉ、医者のくせにWEB記事見ただけで99%だからイケイケドンドンだったろうが
人間の理解力なんざそんなもんさ
ニーズを訊けば
自ずと答えの出る問題はあるからねえ
突っ込んだアドバイスが出来るのも
専門家の腕の見せ所だ
とてもよくわかったんだけど
ワタシは何だかすっきりしないな
本当に問題はそれだけなの?
そもそも母体保護法によれば...
いいこと言うね
今までの話は、検査特性とカップルのニーズとに
焦点を合せてきた
だが出生前診断が高い精度で可能でも
治療か中絶かのどちらかが出来ないと
まったく意味を失ってしまう
週数の制限はしってるけど
それ以外の要件はちょっと...
母体保護法も読んだことないし
今度はその辺を突っ込んでみようか
つづく
※この物語はフィクションです
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