前回(眠られぬ夜のために2)の要約
「99%の確率でダウン症が判る」と紹介された出生前検査cell-free DNAは、20-25歳妊婦が検査を受けると、陽性に出てもダウン症である確率は33%しかなく、67%はダウン症でないことが判明しました。これが40代妊婦であれば、検査陽性だと約95%の高い確率でダウン症と判ります。両世代とも、検査陰性ならほぼ確実にダウン症を否定出来ます。ここでカップルのニーズに着目すると、2つのことが判ります。
(1)障害の有無にかかわらず、産み育てるつもりのカップル
このカップルには出生前検査が不要です。検査が陽性でも陰性でも、産んで育てると決めているからです。もちろんそんなカップルにも、検査が絶対不要とはいえませんが(心の準備、療育の予習など)、積極的に検査を勧めるほどではありません。
(2)とにかく障害は困るというカップル
このカップルには積極的に検査を勧めるべきです。妊婦の年齢によらず、検査陰性であれば、ほぼダウン症を否定出来るとのことでした。この検査特性とニーズとを組み合せれば、検査陰性なら安心してお産に向かえますし、陽性なら今回は諦めるという選択が出来ます。
しかし......
とてもよくわかったんだけど
ワタシは何だかすっきりしないな
本当に問題はそれだけなの?
そもそも母体保護法によれば...
実はボク、産婦人科医になりたいと思ったことがあって
胎児治療にも関心を持っていました
産科医の友人にもらった資料なら
ここにありますよ
http://www.jsog.or.jp/PDF/58/5809-107.pdf
・胎児胸水腹水吸引除去
・胎児水腫薬剤治療
・尿路閉鎖吸引除去
・頻脈薬剤治療
・胎児輸血
出生前に障害が判れば
事前に治療することが出来るんだ
だったら出生前検査
オッケー!オッケー!じゃん
ほうほう
治せるものは治すべきだな
なるほど
で、クアトロマーカーや今回のcell-free DNAは
このうちどの治療と繋がんだ?
クアトロマーカーやcell-free DNA検査と
胎児治療とは、直接結びつかないんじゃないかしら?
胸水、腹水は超音波検査で診断するでしょうし
他の疾患も、cell-free DNAを使って
診断するものじゃないわね
そもそも
染色体異常は
外から手を加えて治す病気ではないっすよねえ
ざっくり言うとだな
クアトロマーカーやcell-free DNAで見つける染色体異常は
胎児治療の対象にならないってこった
形態的・機能的異常なら
超音波検査その他で見つかったときに
治療を始めりゃ済む話だしな
cell-free DNA検査は
胎児治療と直接結びつくことはない
だとすれば、検査の意義は何だ?
ああ
理由はいくらでもこじつけられるが
はっきり言えば中絶するかどうかを
決めるための検査だ
異論は認めないこともないが
そう
そこなのよ
ワタシがすっきりしない点は
中絶について定めた
母体保護法を見てみましょうよ
見るなら第十四条だな
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S23/S23HO156.html
(医師の認定による人工妊娠中絶)
第十四条
都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する医師(以下「指定医師」という。)は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。
だが優生学とその施策はナチスのお家芸じゃねえ
福祉国家だって同じことやってんだ、イギリスしかり、北欧しかりな
それとこの法律は1948年施行
1949年の改正で経済的理由の中絶を認めた
当時の事情によってな、これが今のねじれの元だと見ているがね
羊水検査、超音波検査、絨毛検査などだな
優生保護法の文言通り「不良な子孫の発生を防止」できる時代が来た
そこに激しい批判を浴びせたのが、折しも声を挙げ始めた
障害を持つ人々だったわけだ
われわれは間引かれるべき存在なのかとな
技術的には障害の出生前診断が可能となったが
胎児の障害を理由とした中絶、いわゆる胎児条項は
母体保護法に入れられることはなかった
だが「経済的理由」は生き残った
ひどい差別なのはよくわかるんですけど
障害を理由とした中絶が
なぜいま生きている障害者への差別なのか
自分にはちょっとわかりにくいっす
そのことでどんな不利益があるんすかね?
※この物語はフィクションです
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